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遺産を残さないという考えも

遺産というと「莫大な財産」をイメージする人も多いかもしれませんが、遺産とはその名の通り「遺された財産」です。

少額であっても遺産には変わりがありません。少額な場合ほど揉めるというデータもあります。

裁判所の令和2年度司法統計によれば、遺産分割事件(相続人間の話し合いで遺産の分け方が決まらず争いになっている事案)の遺産額は、「1,000万円以下が約35%」「5,000万円以下が約43%」と、5000万円以下だけで全事件数の78%と、実に4分の3です。

このラインを参考にすれば、自分の遺産額が揉め事の種になるかどうか、ある程度見えてくるのではないでしょうか。

良かれと思って残したお金で配偶者や子が揉めるてしまう・・・。何ともいえない気持ちになりますね。

法律家に相談すると

「遺言を書いておきましょう」

「早い段階から計画的に生前贈与をしましょう」

などとアドバイスをされることが多いのですが、これから解説するような「ちょっと意外な」解決策もありますので知識として知っておいていただければと思います。

揉めるくらいなら使い切ってしまう

それは、揉めるくらいなら「すべて生前に使い切ってしまう」というものです。

不動産であれば売却してしまい現金にして、趣味や旅行など自分の好きな事に使ったり、適正かつ必要な分だけ子供や孫に渡すというような使い方をします。

現金・預貯金を取り崩していき、遺産が全くないのに近い状態にしておけば、相続人たちが揉める原因は少なくなります。

遺産の分配方法で家族がバラバラになるくらいなら、いっそ使ってしまうのも良い方法でしょう。

とは言え、生前にキレイに使い切るのは難しいでしょうが、計画的かつ長期的に使えばよいだけです。

拍子抜けしましたでしょうか?

「自分がいつ亡くなるか判らないのに、使い切るなんて無理」と思われたでしょうか?

全くその通りで、この記事の内容が適さない人もいますので、気になる方は最後までお読みいただけたらと思います。

世界にはいろいろな価値観がある

遺産は「残さなければならないもの」ではなく、「亡くなった時に残ったもの」です。

無理をして残すのではなく、使ってしまうのも一つの方法です。

日本人は勤勉な国民性とも言われ、自分が亡くなった時のために、子や孫に少しでも財産を残しておいてあげたいと考える人が少なくありません。預貯金や現金の貯蓄率が高いことでも知られています。

もしかすると、「財産を残さないで死ぬのは恥ずかしい」と思っている人もいるかもしれません。

ですが、例えばイタリアの場合、「遺産ゼロで死ぬのが格好良い」という考えが一般的だそうです。

下手に残して相続人の間でもめ事の種になるより、自分の人生を楽しむためにお金を使うことこそ名誉だという思想です。

どちらが正しい・間違っているということではありません。文化的な差も大きいでしょう。

ですが、世界の国々を見渡すだけでも多彩な考え方があり、遺産は決して「残さなければならない」ものではないのです。

前述したように、遺産によって揉めることがあるというデータもあるのですから、イタリア人のように思い切り使って「遺産はほとんどありません」という方が、自分も楽しいし、残された人間もトラブルにならないので良いのではないかとも思います。

また、ある経営者家系の社長の家では、「子や孫に残す財産の適切な額」が親から子へ伝えられ、それを代々守り続けているとお話されていました。

先代からの引き続いた教えで、遺産を残し過ぎて良いことは何もないそうです。

資産家の方からよく聞くお金の使い方

自分のためにお金を使う方法として、やはり旅行を勧められる方が多いです。

世界一周とまではいかなくても、特に外国への旅行の話はよく聞きます。

国内とは異なる非日常の体験を通して人生の幅が広がりますし、費用が高くつくというのも特別感があって良いのかも知れません。

このような考え方は、社長の2代目への引継ぎや遺言書作成の相談のときに耳にするようになり、とある依頼者様から下記の本を紹介していただきました。

「Die With ZERO」(直訳すると『ゼロで死ね』)

書評サイトなどで見てもらえれば共感できるところがあると思いますので、気になる方は一度検索してみてください。

内容を簡単に要約すると

「今できること・今やりたいことを後回しにせず、今やりましょう。」

「お金は生きている間に使い切ってしまいましょう」

というものです

貯蓄をすることが悪いわけではありませんが、考え方の1つとして知っておくとバランスが良いのではないでしょうか。

仕事柄、経営者さんや広い年齢層の方とお話をする機会が多いのですが、この書籍の内容との共通点として以下のようなものがあります。

1.財産の多い少ないを気にするよりも、「経験」や、そこから得られる「感情」を大切にする。

貯金は、無いよりは有るほうが良いのは言うまでもありませんが、日々の人生を楽しむための時間や感情を疎かにしてまで貯める必要があるのかを、一度考えてみても良いかも知れません。

童話「アリとキリギリス」のアリのように、お金のために働き続けて人生を楽しめていないのではないか?と、自分に問いかけください。

ちなみに本書は、「アリはいつ遊んでいるのか?まさか働くだけの人生なの?」という問いから始まります。

2.高齢になってからでもできる事かどうかを十分に考えること

年齢に対する人々の価値観が、ここ数十年で変わってきた気がします。

ひと昔前の50代と、今の30代が同じくらいの感覚なのではないでしょうか。

アニメ「サザエさん」のキャラクターである波平さんの年齢をご存じですか?

70代くらいに感じますが、設定上は54歳です。当時の感覚では、「50代はおじいちゃん」といったところだったのでしょう。

現代では、54歳は「おじいちゃん」どころか「まだまだ現役世代」ですよね。

体力的にも、生き方や服装などの思考の感覚も30代とたいして変わらないのではないでしょうか。

とは言え、身体能力・判断能力・好奇心・考える力や想像力などは、年齢と共にどうしても落ちていくでしょう。

やりたい事にお金がかかるのであれば、今すぐに遠慮なくお金を使った方が良いです。

若い頃と老いてからでは、同じことを経験しても感じ方が変わり、楽しくなかったり同じ感情を味わえない可能性が高いということです。

3.いつかは死んでしまう。健康を大きく損なうかもしれない。それは突然かもしれない。

経営者や高齢者は、多くの人と接して来ました。身近な人の死や大病を知り自問するようです。自分も、いつ死ぬかわからない。先延ばしや我慢をする人生で良いのか」と。

4.やりやいことで健康な間にしかできない事は今すぐにする

遠方への旅行では、飛行機や列車に長く乗らなければならないかもしれません。長時間乗車にも健康は大事です。それなりの体力も必要でしょう。

何歳になってもチャレンジはできますが、「楽しめる能力」が下がるのは事実でしょう。それなら、1日でも早く実行に移しましょう。

5.人生の終わりに向けて、お金は最低限だけ残す

「子どもたちのために財産を残してあげたい」という気持ちは誰しもがもっているものでしょうが、これとは反対の事を口にする方も多いです。

その子に合った適正な財産というものがあるようで、それ以上に持ってしまうと逆に不幸せになることもあるとのこと。

確かに、遺産分割協議で兄弟姉妹がもめることは多いですね。

2代目の経営者が「親のおかげで楽させてもらっています」とおっしゃるのを聞いたこともありません。

本書が伝えたい事

それは、「今しか」経験できないこと、「今しか」楽しめないかもしれないことを先延ばしにしないでということではいでしょうか。

ただし、「貯金は無駄」「働いたら負け」「欲望に従え」などという話ではありません。

本書の内容を真に受けて、目先の欲求を追求すると失敗することでしょう。

経験に使うお金と、人生終盤までを見据えた貯蓄との兼ね合いが大切だということです。

間違えても、「お金の心配などせずに今だけを考えて生きよう!」という解釈はしないようにご注意を。

また、「今しかできない経験に使うべきお金を、必要以上に貯め込まない」というえ考え方には、共感する部分があるとはいえ、「必要以上に貯め込むことができている日本人」が、どのくらいいいるのかというと疑問もあります。

『DIE WITH ZERO』の内容には賛否両論があるのは事実ですので、自分の特性を考えて判断した方が良いでしょう。

筆者

小林 朋広
小林 朋広司法書士・行政書士
・兵庫県司法書士会所属/日本司法書士会連合会
・兵庫県行政書士会所属/日本行政書士会連合会
相続・遺言・登記・後見など司法書士(行政書士)が扱う業務は多岐に渡ります。普段の生活では耳馴染みもなく、初めて問題に対峙された時にどの様に対処をすれば良いか困惑されることも多いかと思います。士業という専門家として、「どうしたら分かりやすくお伝えできるだろうか」「ご希望に沿う形での解決は何だろうか」と日々考え、円滑な解決とともに、お客様に寄り添う司法書士(行政書士)でありたいと考えています。

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