少額の相続で起こりやすいこと
ドラマや映画を見る限り、相続の争いはお金持ちや資産家などに発生するものであって、一般家庭には縁のないこと…と思う人もいるかもしれません。ですが遺産「争族」は、お金がなくとも起きるものなのです。
お金持ちの相続とお金がない相続
お金持ちが亡くなった際の遺産相続で揉めるのは、やはり「どれだけ継げるのか」です。
何億円もの遺産があれば、誰がどのくらい継ぐのかで揉めるのも仕方ない部分はあるでしょう。ましてや遺言書で事細かに設定されているのであればともかく、何も残されていないとなれば遺された人間がどれくらいの取り分になるのかによって揉めるのも致し方ない部分もあります。
どれくらい継げるのかによって、その後の人生が変わる場合であれば仕方のないこともあるでしょう。ですが、少額にもかかわらず相続でトラブルとなるケースがあるのです。
むしろ、お金がないからこそかえってトラブルになると言っても良いかもしれません。なぜなら、お金がないなら「少しでももらいたい」という気持ちが生じてしまうのです。
ましてや相続人とてそれぞれの生活があります。現状の生活に貧窮していればしているほど、「遺産が入れば楽になる」との思いから、遺産に対しての執着心が出てしまうのですが、遺産がないとなれば「何でないんだ」「もしかしたら隠しているんじゃないか」「自分が知らされていないだけで、実際には他の相続人(兄弟や姉妹、親戚)が勝手に何か継いでいるのではないか」といった不信感が出てしまい、トラブルに発展するケースもあるのです。
トラブル回避のためには?
ないのにトラブルになる。まさに人間のお金への執着心と言わざるを得ないのですが、このようなトラブルを防ぐためにはやはり遺言書の存在が大きいでしょう。遺言書はただ単に遺産の分配方法を遺すものではなく、「残された人間へのメッセージ」でもあるのです。
なぜ遺産が無いのか。その点をしっかりと明記しておくだけでも相続者たちは納得できるのではないでしょうか。相続人としては「なぜないのか」に納得できないからこそ、周りよりも少しでも多くのお金を得たい。その思いが高じてトラブルとなってしまうのです。そのようなことにならないためには、お金がない理由を遺言に記すだけでもトラブル回避となるでしょう。
金融資産だけの問題ではない
お金がなくともトラブルになる理由はもう一つあります。それは金融資産だけではなく、不動産です。
建物や土地の場合、現金のように割ることができません。金融関連のものであればある程度分けることができるのですが、不動産の場合、分けるのが難しいのです。
例えば100平米の土地を持っている場合、相続人が3人なら33.3平米ずつ…と思っても、じゃあ残されたその土地で何ができるのかという問題も発生します。33.3平米では建物さえ建てられません。その建物で何をすべきなのかというよりも、できることなど限られているでしょう。それだけに、誰もが「100平米全て欲しい」になるのです。
不動産に関する遺産相続は、大半がこの手のものです。分割することができないため、どうすれば良いのか明確な答えが出ないのです。この問題を解決するためには、不動産を与えられない相続人には金融による遺産などで「相続分」を平等にするという選択肢も大切ですが、それだけの遺産を工面するのが難しいのであれば、遺言で「不動産を売却して残ったお金を分配してくれ」なる旨を遺言に記しておくのが良いでしょう。
遺産でトラブルになる原因は、突き詰めれば「遺言に書いていないこと」です。つまり、考え得る選択肢を全て遺言に遺しておけば、トラブルの多くは回避できるのです。
筆者
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・兵庫県司法書士会所属/日本司法書士会連合会
・兵庫県行政書士会所属/日本行政書士会連合会
相続・遺言・登記・後見など司法書士(行政書士)が扱う業務は多岐に渡ります。普段の生活では耳馴染みもなく、初めて問題に対峙された時にどの様に対処をすれば良いか困惑されることも多いかと思います。士業という専門家として、「どうしたら分かりやすくお伝えできるだろうか」「ご希望に沿う形での解決は何だろうか」と日々考え、円滑な解決とともに、お客様に寄り添う司法書士(行政書士)でありたいと考えています。
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