相続放棄
司法書士による相続放棄手続き
相続では預貯金・不動産などのプラスの財産だけでなく、負債というマイナスの財産も相続することが考えられます。
それらを総合的に判断をして、「相続しない」と判断した際に「相続放棄」という手段を選択します。
とても慎重な状況の把握や正確な書類の作成が必要なため、専門家である司法書士へのご相談が多い事案となります。
心身が疲弊されている中で取り組むには、とても労力を必要とする事案でもありますので、そのような状況も踏まえ、円滑な相続が行われるよう司法書士としてお手伝いできればと考えております。
相続放棄手続きご依頼の流れ
- 1 – 相続が発生
- 2 – 当事務所へお問い合わせ
- 3 – ご依頼者様の状況の確認
- 4 – 相続関係調査(戸籍収集)
- 5 – 相続放棄申術書作成(郵送)
- 6 – 家庭裁判所へ申立て
- 7 – 裁判所で認められ、相続放棄申述受理通知書を発送
- 8 – 完了
必要書類(例:配偶者、子の場合)
被相続人の方(お亡くなりになられた方)の
- ・戸籍 ※死亡の記載のあるもの
- ・住民票の除票又は戸籍の附票
相続人の方全員の
- ・戸籍
- ・収入印紙(800円/1人)
- 郵便切手(管轄の家庭裁判所による:神戸家庭裁判所の場合84円切手5枚+10円切手5枚)
以上のような必要書類をもとに相続放棄の手続きを行ってまいります。
相続放棄は専門性の高い事案にはなりますが、相続人として「相続放棄」とはどのようなものか知っていただく上でも、よろしければ相続放棄とはどのようなものかを一読いただければ幸いです。
相続放棄とは
相続放棄とは、故人が残した財産の一切を引き継がないとすることができる、家庭裁判所での手続きです。
「財産の一切を引き継がない」手続きのため、仮に借金のようなマイナスの財産があっても引き継がなくてよくなります。
預貯金や家などのプラスの財産だけを引き継ぎ、マイナスの財産だけを相続放棄することはできません。
相続放棄をするべき場合はどのようなときか
どのような状況のときに相続放棄をするべきかは、故人が残した財産の内容によって違います。
相続人の構成によっても色々な判断が考えられますので、よくある例をもとに判断材料を提示します。
相続放棄をした方が良い場合
・故人が残した預貯金の額や家などの不動産の価値が、故人の借金額よりも明らかに低い場合。
・故人とは不仲で、プラスの財産であっても相続したくない、一切かかわりあいたくない場合。
相続放棄をしなくて良い場合
・相続人の間で問題なく遺産分けの話し合いができており、遺産を相続しない場合。もしくは、法律の定め(法定相続分)よりも少ない遺産を相続する人が納得している場合→遺産分割協議という相続人同士の話し合いで解決できるため
相続放棄をするべきかどうかは、判断に迷う場合も多いでしょう。
専門家に相談に行く前に、故人の遺産や相続人の関係性について一度整理しておくと話がスムーズです。
相続放棄の例(Aさんご家族の場合)
では、次のような場合は、相続放棄をしたことになるのでしょうか?
Aさんが亡くなり、Aさんの奥様(配偶者)はすでに他界されていて、長男Bさんと次男Cさんの2人が法定相続人です。次男のCさんは葬儀後の話し合いで、Bさんに「財産はいらない」と言いました。
要約すると・・・
家庭裁判所をとおした正式な相続放棄はができていませんので、万が一、父親のAさんに多額の借金があることが、Bさんとの合意後に判明した場合、「自分は相続放棄をしたのだから、借金の返済には関係がないはずだ」と突っぱねても認められません。
上記の事例では、Cさんは他の相続人との話し合いの中で、本来自分がもらうべき財産を受け取らないという合意をしただけのことです。この場合、Cさんは相続放棄をしたことにはなりません。これは口約束ではなく、書面(覚書や遺産分割協議書など)を作っていた場合でも同様です。
仮にBさんが、「Cには父の借金を負担させない」と言ってくれたとしても、お金を貸した相手(債権者)の立場からすると、Cさんにも借金の返済を求めることができてしまうことになるのです。
必ず申し立てが必要
相続放棄は、家庭裁判所に対して、「自分は亡くなった〇〇の相続人にはならない」という申し立てをして、受理してもらわなければなりません。
相続放棄の手続きについて
手続き開始の条件と流れ
「自分自身が相続人になったことを知った日から3か月以内」に、「家庭裁判所に相続放棄申述書を提出」する必要があります。
ここでは裁判所のHPに記載があるように相続を知った時から3ヶ月がポイントになります。3ヶ月の相続放棄についてはこきらに詳しく記載しておりますので1度目を通していただくとよいかもしれません。
上記の条件に沿った申述書類の提出がなされると、家庭裁判所が書類の内容を審理します。
状況によっては、家庭裁判所から相続人に照会書(質問状)が発送され、追加で回答をすることになる場合もあります。
以上の審理結果を総合的に判断し、裁判官が申述を受理すると、最終的に「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。
こうして初めて、正式に相続放棄をしたことになるのです。
1.相続放棄に必要な書類を集める
相続放棄申述書
戸籍等の証明書
・相続人が故人の配偶者・子供のとき
被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(本籍地の市区町村役場で取ります。住民票登録地の市区町村役場ではありませんのでご注意ください)
なお、故人の子供が先に亡くなっていた場合は、故人の孫が相続人となります。その場合は、子供(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍謄本も必要です。
・相続人が故人の父母の場合
故人の出生から死亡までの繋がりがわかる戸籍謄本(本籍地を移動している場合は、移動したそれぞれの市区町村役場で取る必要があります。
・相続人が故人の兄弟姉妹のとき
故人の子供が死亡しているときは,その子供の出生から死亡までの繋がりがわかる戸籍謄本。故人の父母の死亡の記載のある戸籍謄本。
・上記いずれが相続人の場合にも共通で必要となる書類
故人の住民票除票(じゅうみんひょうじょひょう)
故人が最後に住んでいた住所地の市区町村役場で取ります。
又は戸籍の附票(こせきのふひょう)
本籍地の市区町村役場で取ります。
・相続放棄をする相続人本人の戸籍謄本
なお、申述には期限の制限があるため、申述の際に全ての書類が手元に揃わないこともあると思います。その場合はできる限りの書類だけを提出し、後日追加で提出すれば大丈夫です。
※相関関係の確認は「法定相続人の順位と割合」を参照ください。
収入印紙
800円分を割印せずに提出してください。
お近くの郵便局・コンビニ・法務局などで購入することができます。
郵便切手
申述先の裁判所により金額や枚数が異なります。詳しくは裁判所に電話でご確認ください。
なお、神戸家庭裁判所(兵庫県内の支部・出張所すべて共通)については、84円切手5枚と10円切手5枚です。
※故人が死亡時に住所をおいていた市区町村を管轄する家庭裁判所となります。
2.相続放棄申述書の記述(記載例)
相続放棄申述書を取得してそれぞれ内容を記入します。
記述(記載)の方法は下記見本にしたがって記述してください。
・故人の遺産は、申述日までに判明した範囲で記載すれば大丈夫です。
・借金の額や不動産の面積などが不明な場合は、「不明」と書いておきましょう。
3.相続放棄申述書等の提出
申述書を提出するのは、故人が死亡時に住所をおいていた市区町村を管轄する家庭裁判所となります。
持参・郵送のどちらでも構いませんが、郵送する場合は到着日を確認できる書留郵便などを利用しましょう。
また、家庭裁判所への持参日・到着日が、故人の死亡を知った日から3ヵ月以内の日である必要がありますのでご注意ください。
たとえば、亡くなった日が
平成31年1月31日の場合は、
平成31年4月30日までに、
家庭裁判所に提出しなければなりません。
家庭裁判所から照会書が届く
申述書の提出からしばらくすると、相続人本人の住所に「照会書」が届きます。自分の意思で相続放棄をするのか、誰かの強制ではないか、等の質問事項に答えて記載します。
基本的にはチェックを入れるだけで済むような書式ですので、あまり構えなくて大丈夫です。
参考までに、神戸家庭裁判所の照会書を掲載します。
照会書には、家庭裁判所への返信用封筒が同封されています。2週間以内に返送するよう指示がありますので、期限内に返送しましょう。
4.家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届く
照会書を返送すると、裁判官が内容を審理し、適当と認められれば相続放棄が受理されます。よほどのことがない限り受理されると思っておいて大丈夫です。
正式に受理されると、相続人本人の住所に、相続放棄申述受理通知書が届きます。司法書士等に依頼した場合は、司法書士の事務所で受け取ることもできます。照会書の返送から1週間から2週間くらいで届くことが多いです。
これで相続放棄の手続きは完了です。
相続放棄申述受理通知書は、特別どこかへ提出する必要はありません。
故人に借金等があった場合に、借入先の金融機関などからコピーが欲しいと言われることがあります。その場合はコピーを郵送しても問題はありません。
相続放棄の手続き費用
もし、相続放棄の手続きを司法書士や弁護士などの専門家に依頼する場合は、上記の印紙代・切手代のほかに下記の費用が掛かります。
・裁判所への交通費・郵送費などの実費
・戸籍謄本等の必要書類の収集まで依頼する場合は、書類取得費用の実費
・手続き報酬
あなたの場合は?「相続人の選ぶ道」
ここまで、相続放棄手続きのおおまかな流れについて解説してきました。
相続放棄をするか、しないかのポイントは、相続人本人がどのような選択をするかによります。相続人の選択肢は下記のとおりです。
相続人が選択する3つの選択肢
①単純承認
②限定承認
③相続放棄
③の相続放棄は先に述べた通りですが、ここで単純承認と限定承認について簡単に知っておいていただければと思います。
単純承認
①の単純承認は、相続においてもっとも多いパターンです。特別な手続きなどをしない、ごく一般的な相続のかたちです。例えば、預貯金を解約して相続人間で分けたり、故人がかけていた生命保険の請求をしたり、持ち家の名義変更(相続登記)をしたりすることなどです。
ただし、この単純承認になるような行為をすると、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産も引き継ぐことになるので、後々思わぬトラブルにならないように注意する必要があります。
限定承認
②の限定承認とは、故人の残したプラスの財産の限りにおいて、マイナスの財産(つまり借金を払う)というものです。
手続きを進めた結果プラスの財産がのこれば、相続人間で分配しますし、マイナスの財産のほうが多かった場合は、相続人が負担することとなります。
実は都合がよくない限定承認
一見、相続人にとってマイナスなことがない、都合のよい制度のように見える限定承認ですが、時間と手間が必要になってきます。
1.相続人全員が共同して限定承認の申し出をする必要がある。一人でも限定承認に賛成しない相続人がいると手続きができない。
2.故人が亡くなったことを知ってから3か月以内に申し立てをしなければならない。
3.相続財産を調査し、財産目録を作り、家庭裁判所に提出する必要がある。
4.相続財産管理人を裁判所に選定してもらう。通常、弁護士が選任されるので、弁護士費用を払う必要がある。
5.申し立てをしたあとに、官報に公告をし、すでに分かっている債権者には催告(連絡)をする必要がある。
6.債権者には現金で配当するため、金銭がない場合は不動産などを競売にかけて処分しなければならない。これも弁護士に手続きをしてもらうので、費用がかかる。
7.手続きが終わるまで、数か月から1年ほどかかる。これほどの手間と時間をかけて行わなければならないため、プラスの財産がマイナスの財産(借金など)より、かなり多い場合でないと実益がない。
などの多様な条件と手続きを必要としますので、どの選択をするのかしっかりと検討することをお勧めします。
相続放棄のアドバイスと注意点
マイナス財産(借金)が、プラスの財産より明らかに多い場合は、迷わず相続放棄した方が良いでしょう。
その際、注意しなければいけないことは、
「相続財産には一切手をつけない」
ことです。仮に預貯金を一部降ろして使ってしまうなどすると、相続放棄をすることができなくなってしまいます(単純承認をしたものとみなされるため)。
また、相続放棄をする場合は、親類縁者に前もって説明をし理解を得ておいたほうが良いでしょう。
なぜなら、自分たちが相続放棄をすることによって、相続権が次の順番の親族にまわっていくからです。
そのため、故人の借金が親戚に回って行くという事態になります。
よくある相談に、「先祖代々からの土地は引き継いでいきたい」「幼少のころの思い出がある家を残したい」というものがあるのですが、先祖や故人への想いとは別に、自らの人生を考えて、いざという時は早めに相続放棄を検討したほうが良いでしょう。
相続放棄にお悩みの方へ
相続放棄は、家庭裁判所の関与を必要とする厳格な手続きです。
それは、相続放棄をして故人の相続から解放されたいあなたの事だけではなく、借金を取り立てたい相手方の不利益にも直結する手続きであるからです。
とはいえ、相続放棄の手続きをご自身で行うことは可能です。ご相談内容によっては、「一度ご自身で申し立てに挑戦してみてはいかがですか」と、アドバイスをすることもあります。
ただし、相続放棄は一度申し立てると、原則として取り下げができない手続きです。
また、ほとんどの方にとって一生に一度のことになるでしょうし、そのために時間と労力をかけて正確な書類が作成できるのか不安が伴うことでしょう。
そのため、「自分自身で書類を作成して、間違いのない申し立てができるのかという心理的負担に耐えられなかった。費用がかかっても確実な手続きをお願いしたい」という依頼者さんが多いです。
「母が亡くなってから3か月以上経過してから借金の督促がきた」「故人の妻子が相続放棄をしたようで、弟である自分に相続権がまわってきてしまい、田舎の山林を相続しなければならない 」などのような案件は、早急な対応が必要です。
特に当事務所では、故人の死後3か月経過後の相続放棄について、ほとんどの事例でお力になることができます。
相続にお悩みの皆様が、少しでも早く不安から解放されるよう、当事務所の経験を活用してください。
筆者
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・兵庫県司法書士会所属/日本司法書士会連合会
・兵庫県行政書士会所属/日本行政書士会連合会
相続・遺言・登記・後見など司法書士(行政書士)が扱う業務は多岐に渡ります。普段の生活では耳馴染みもなく、初めて問題に対峙された時にどの様に対処をすれば良いか困惑されることも多いかと思います。士業という専門家として、「どうしたら分かりやすくお伝えできるだろうか」「ご希望に沿う形での解決は何だろうか」と日々考え、円滑な解決とともに、お客様に寄り添う司法書士(行政書士)でありたいと考えています。
司法書士・行政書士に関する業務
- 2024年8月1日書類作成交通事故による保険金請求(自賠責保険)
- 2024年7月17日相続登記(名義変更)相続による不動産の名義変更(相続登記)
- 2023年8月7日許認可手続き申請軽自動車による貨物運送事業の届出(黒ナンバーへの交換)
- 2023年2月27日許認可手続き申請産業廃棄物収集運搬許可申請